つまり何が起きたか

大和証券が2026年9月25日、LayerXのAIプラットフォーム「Ai Workforce」を、全国の相続業務を扱う拠点で本格採用したと発表しました。金融機関のバックオフィス業務にAIエージェントの導入を検討している経営者・情報システム担当者にとっては、定型的な書類業務をどこまでAIに任せられるのかを知る手がかりになる発表です。

大和証券のAi Workforce本格採用の発表概要を示す図
大和証券は戸籍謄本の読解による相続人判定と、相続関係図の作成にAi Workforceを本格採用した。

対象になったのは2つの作業です。ひとつは戸籍謄本を読み取って相続人の範囲を特定する「相続人判定」。もうひとつは、特定した相続人の関係を家系図の形に整理する「相続関係図」の作成です。どちらも、これまで担当者が書類を目で読み解いて手作業で進めていた業務に、読み取りと下書き作成の部分でAIが加わった、という発表です。

Before → After:相続業務はどう変わるのか

Before: 相続手続きの初期段階では、担当者が戸籍謄本などの書類を複数取り寄せ、手作業で読み解いて相続人を特定し、相続関係図を作成していました。明治〜昭和期に作成された戸籍は手書き・縦書きに加えて汚損やかすれが目立つものも多く、正確に読み取って判定するには高度な専門知識が必要です。属人化しやすい業務だったことが、公式発表でも背景として説明されています。大和証券は現在も毎月数千件規模の判定業務を抱えており、高齢化の進展でさらに増える見通しだったといいます。

相続業務のBefore/After比較図
相続人判定と相続関係図の作成は、AIの支援を受けて担当者が確認と最終判断に集中する形に変わった。

After: Ai Workforceが戸籍本文の読み取りと相続関係図の下書き作成をAIエージェントとして支援し、担当者は確認と最終判断に集中できる体制になりました。読み取りには AI-OCR とマルチモーダルLLM、それに独自のルールベースのロジックを組み合わせ、離婚・再婚・認知・離縁・復縁・代襲相続といった複雑なケースにも、続柄が成立していた期間を考慮して対応します。判定結果をもとに、相続関係図はExcel形式で自動生成されます。導入にあたってはLayerXの担当者がハンズオンで支援し、実証実験で機能性・実用性が高く評価されたことが本格導入の決め手になったと発表されています。

具体的な削減時間や対象拠点数は、今回の発表には記載がありません(「毎月数千件規模」という規模感の記述のみです)。

できるようになったこと

Ai Workforce導入で変わる3つの立場の図
支援を受けるのは担当者だけでなく拠点全体、そして書類処理AIの実用化という流れそのもの。
  • 相続業務の担当者: 戸籍謄本など複数の書類を横断して相続人を特定する作業を、AIエージェントが支援するようになりました。判定の根拠にした戸籍の該当箇所は、参照元をハイライトする機能でその場から確認できます。
  • 拠点の職員: 相続関係図の作成・確認にかかる負荷が下がる見込みです(公式発表が説明する範囲での話です)。
  • もう少し広く見ると: 「書類を読み込んで、構造化して整理する」という定型的な知的作業へのAIエージェント導入が、金融機関のバックオフィスでも実用段階に入っている一例として位置づけられます。

LayerX Ai Workforceとは何か

Ai Workforceは、LayerXが提供するエンタープライズ企業向けのAIプラットフォームです。PDF・Word・Excel・PowerPointといった書類の処理に特化し、生成AIが誤った回答を出すリスクに強い設計になっているとされています。Excelテンプレートへの転記や機密情報のマスキングなど、業務に合わせたカスタムモジュールも備えます。

Ai Workforceを構成する4つのコンポーネントの図
Ai Workforceはナレッジ・スキル・ツール・UIの4要素を組み合わせ、顧客ごとのAIエージェントを作る。

製品の中身は「ナレッジ」「スキル」「ツール」「UI」の4つのコンポーネントで構成されており、これらを組み合わせて顧客・業界ごとに最適化したAIエージェントを設計・構築する仕組みです。「企業と共に成長するプラットフォーム」というのが公式のコンセプトで、使うほどナレッジやデータが蓄積され、AIが担える業務の範囲が広がっていく、という位置づけになっています。

LayerXは2018年設立の会社で、代表取締役CEOは福島良典氏、代表取締役CTOは松本勇気氏です。AIバックオフィスエージェント「バクラク」事業や資産運用サービス「ALTERNA」など複数の事業を展開しており、Ai Workforceはそのうちの一つという位置づけになります。

何ができるのか:2つの機能

Ai Workforceには、性質の異なる2つの機能があります。

AIエージェント機能とAIワークフロー機能の比較図
非定型業務には対話型のAIエージェント機能、定型業務にはノーコードのワークフロー機能が向く。

AIエージェント機能は、対話を通じて成果物を仕上げる機能です。指示を出すと調査・要約・資料作成などが進み、フィードバックを加えれば成果物をブラッシュアップすることもできます。都度判断が必要な、非定型の業務に向いた機能です。

AIワークフロー機能は、繰り返し業務の自動化に特化した機能です。ドキュメントの審査、契約書のチェック、フォーマットの自動チェックといった、再現性の高い業務プロセスをノーコードで定義・自動化できます。複数のステップにまたがる業務にも対応するとされています。

大和証券の相続人判定・相続関係図作成は、書類を読み取って構造化するという再現性のある作業なので、この2つのうちワークフロー的な仕組みが軸になっていると考えられます(この位置づけは公式発表に明記されたものではなく、機能説明から読み取れる範囲の理解です)。

大和証券だけじゃない:導入実績で見る規模感

Ai Workforceの導入は大和証券が初めてではありません。

福岡銀行とJA三井リースの導入実績を比較した図
契約書管理と見積書登録、書類を読み取って構造化する業務でAi Workforceの採用が積み重なっている。
  • 福岡銀行(2026年5月7日発表): 地銀として初めてAi Workforceを導入。ストラクチャードファイナンスの契約書類管理業務を効率化し、年間約7,000時間の削減を見込むと発表されています。内訳は契約書検索が約6,500時間/年、管理表作成が約500時間/年です。削減できた時間は、顧客対応の充実や業務品質の向上に充てる予定とされています。
  • JA三井リース(2026年3月10日発表): 年間約1.8万件に及ぶ見積書の登録業務を、主に事務担当者約150名が行っていました。サプライヤーごとにレイアウトが異なる見積書から明細を目視で確認して転記する負荷、数百行に及ぶ明細項目に社内マスタのルールを当てて管理コードを特定・付与する負荷が課題だったといいます。「Ai Workforceリースソリューション」の導入で、作業時間の5割削減を目指すとされています。

これらの数値はいずれも各社発表時点の見込み・目標であり、実績として確定した数値ではありません。ただ、契約書の管理や見積書の登録のように、書類を読んで構造化するという同じ種類の作業に繰り返し導入が進んでいる点は共通しています。大和証券の相続業務も、この延長線上にある事例と見てよさそうです。

導入が広がっている背景として、LayerXが「選ばれる理由」に掲げているのは3点です。標準機能を使うことで従来型のPoC(実証実験)より検証にかかる期間・コストを削減できること、実装から運用開始までLayerXの担当者が一貫して伴走すること、そして一度エンタープライズ水準のセキュリティ基盤を整えれば次の部署・拠点への展開がスムーズに進むことです。大和証券の導入でも、LayerXの担当者がハンズオンで支援したことが発表で触れられています。

セキュリティ面では、Ai Workforceは2026年5月にSOC2 Type2の認証を取得したと公式サイトで説明されています。ISO27017(クラウドセキュリティの国際規格)もAi Workforceにおいて認証済みです。

個人でも触れるのか

結論としては、個人が無料で試せる製品ではありません。

Ai Workforceの法人向けと個人でできることの比較図
Ai Workforceは法人向けの導入製品で、個人が無料で試せるトライアルは用意されていない。

Ai Workforceは経営層・経営企画部門・AI/DX戦略部門といったエンタープライズ企業を対象にした導入製品です。公式サイトのCTA(行動を促す導線)は「資料ダウンロード」のみで、個人向けの無料トライアルやセルフサーブのサインアップ導線は見当たりません。導入は資料請求や問い合わせから始まる形になっています。

自社のバックオフィス業務に「書類を読んで構造化する」ような定型作業がないか洗い出してみるのは、情報システム担当者や経営層であれば今日からできることです。一方、個人としてAIエージェントの活用を試してみたい場合は、Ai Workforceとは別の入口を探す必要があります。例えば、ノーコードで業務を自動化する仕組みはn8nをVPSでセルフホストする最短手順、書類の読解・要約を無料枠で試すならNotebookLM使い方|無料版の上限を公式情報で確認で、個人でも触れる範囲を確認できます。

公式発表だけでは分からないこと

今回の発表を確認した範囲では、次の点は明らかにされていません。

公式発表で分からない3点をまとめた図
対象拠点数・具体的な削減時間・費用や期間は、今回の発表では明らかにされていない。
  • 大和証券における相続業務の対象拠点数
  • 大和証券の事例における定量的な削減時間・削減率(「毎月数千件規模」という規模感のみの開示)
  • 導入にかかった期間・費用

また、LayerXは「バクラク」など複数の事業を展開していますが、それらで得た知見をAi Workforceに横展開しているという明示的な説明は、今回確認した公式ページの中には見当たりませんでした。複数事業を展開する企業の1事業、という事実の範囲で理解しておくのが正確です。

まとめと次の一歩

大和証券の今回の発表は、「戸籍を読んで相続人を判定し、相続関係図を作る」という、地味だけれど時間のかかる知的作業に、AIエージェントが金融機関の現場で本格的に組み込まれ始めた事例です。福岡銀行の契約書類管理、JA三井リースの見積書登録と合わせて見ると、書類を読み取って構造化するタイプの業務でAi Workforceの採用が積み重なっていることが分かります。

記事のまとめと次にやることを示す図
自社の定型業務を洗い出すことと、個人で試せるAIツールに触れることが今日からの一歩になる。

Ai Workforce自体は法人向けの導入製品で、個人がすぐに触れるものではありません。今日やる一歩を1つに絞るなら、自社(または自分の業務)に「書類を読み取って構造化する」定型作業がないかを洗い出したうえで、同じ「書類を読んで整理する」体験を無料枠で試すことです。

NotebookLMはアップロードした資料の要約・整理をAIが担う仕組みで、無料版の範囲内であれば費用をかけずに試せます(公式情報で無料版の上限を確認済み)。戸籍のような書類を読み取って整理するAi Workforceの考え方に近い体験を、個人の手元でも確認できます。

なお、業務プロセスそのものの自動化に関心がある場合は、n8nをVPSでセルフホストする最短手順という選択肢もあります。