Microsoftが2026-09-28、汎用的なAIモデルに「その会社だけが持つデータや業務知識」を組み合わせて回答させる新機能群を発表しました。中心となるのは「Fabric IQ」で、Copilot ChatとCoworkでの一般提供(GA)が始まっています。エンタープライズ向けのデータ基盤(Fabric・Power BI・Azure)を前提とした発表のため、本記事は公式発表と関連ドキュメントの内容を出典つきで整理したものです。実際の管理画面での操作は行っていません。
社内データを使ったAI活用やCopilot導入を検討している情シス・DX担当者に関係する内容です。今日できることは、自社が使っている契約(Microsoft 365やAzure)がFabricの有償キャパシティを含むかどうかを、公式ドキュメントで確認するところまでです。新規の課金や申込みは不要です。
何が発表されたか
発表の舞台は、バルセロナで開催中のEuropean Microsoft Fabric + SQL Community Conference(2026-09-28〜10-01、データ専門家4,000人超・セッション150以上)です。著者はMicrosoftのデータ・AI・デジタルアプリケーション部門のマーケティング責任者、Jessica Hawk氏です。

発表の核は「Fabric IQ」という仕組みです。Microsoft自身の説明を訳すと、「Power BIのセマンティックモデル・指標・関係性・ビジネス定義といった、組織がすでに信頼している情報をCopilotに持たせ、その情報に基づいて回答させる」機能です。
ここで2つの言葉を補足します。「セマンティックモデル」とは、Power BI(Microsoftの分析ツール)で使われる、データの意味や関係性を整理した設計図のようなものです。「グラウンディング」とは、AIの回答を当てずっぽうの一般論ではなく、その会社が持つ具体的なデータや定義に基づかせることを指します。
Fabric IQによるCopilot ChatとCoworkへのグラウンディングは「now generally available(一般提供開始)」と明記されています。プレビュー段階ではなく、正式な機能として使える段階に入ったということです。
具体的にどう使うのか
発表本文の中で、実際の使い方として示されている例は1つだけです。著者本人が営業レビューの準備中に、Copilotへ「What’s our latest sales forecast?(最新の売上予測は?)」と質問した体験です。

Fabric IQ導入後は、この質問に対してチームが日常のPower BIレポートで使っているのと同じセマンティックモデル・ビジネス定義・指標に基づいて回答が生成された、と説明されています。つまり、担当者によって「売上予測」の定義や集計方法が食い違い、答えがバラバラになるような事態を防げる、という文脈です。
なお、「自然言語でPower BIレポートの構成案を自動生成する」「複雑なDAX関数やPythonの分析コードを自然言語の指示から作る」「データフロー画面でCopilotに整形を指示する」といった個別の操作は、今回の発表より前から存在する「Copilot in Fabric」という別の機能です。Fabric IQは、その土台の上に会社固有の定義や関係性を載せる仕組みの発表であり、操作画面そのものが新しく登場したわけではありません。今回の発表本文には、それ以上の具体的な操作イメージや画面の記載はありません。
これまでと何が変わったか
Before: 汎用的なAIモデルは、公開情報や入力したプロンプトの範囲でしか回答できませんでした。自社固有の商習慣や、過去にどういう定義で数字を集計してきたかといった文脈までは踏まえられません。

After: 発表にある例のとおり、Copilotが自社のPower BIの定義・指標・関係性を踏まえて回答できるようになりました。Fabric・Power BIを契約している組織では、この機能は既定でオンになっており、既存のアクセス制御やガバナンス(誰が何を見られるかの権限設定)を保ったまま利用が始まります。
Fabric IQという名前自体は今回が初登場ではありません。2026年6月のMicrosoft Build(開発者向けイベント)の時点で「(preview)」扱いのワークロードとしてすでに存在していました。今回新しいのは、(1)Copilot Chat・Coworkへのグラウンディングが一般提供(GA)になったこと、(2)組織間でデータや業務文脈を安全に共有する「IQ Sharing in Fabric」が新たにプレビュー公開されたこと、(3)Database Hub・SQL Server on Azure Localなど周辺の機能が同時に前進したことです。
対象の製品・プラン・有効化に必要な設定
今回発表された機能は、状態(一般提供・プレビュー・記載なし)がそれぞれ異なります。公式発表と関連ドキュメントで確認できた範囲を一覧にしました。

| 機能 | 状態(2026-09-29時点) |
|---|---|
| Fabric IQによるCopilot Chat / Coworkのグラウンディング | 一般提供開始(GA) |
| IQ Sharing in Fabric | プレビュー |
| Observability in Fabric(横断監視・原因特定の自動化) | 記載なし |
| Database Hub in Fabric(DB統制プレーン) | パブリックプレビュー |
| SQL Server on Azure Local | 一般提供開始(GA) |
| 同上・オフライン運用対応版 | プレビュー |
| Fabric Apps | 記載なし |
| Agentic Data Engineering | 記載なし |
| 新しい「Code」体験との統合 | Frontier program経由の限定提供(GAではない) |
利用の前提として、Copilot自体は有償のFabricキャパシティ(「F2」以上のプラン)を持つテナントで既定オンになります。トライアル用のプランでは使えません。Fabric IQのグラウンディング自体は、この土台の上でさらに追加操作なしに有効になる、という位置づけです。
日本のFabricテナントには、もう1段階の確認事項があります。CopilotのAI処理を行うAzure OpenAI Serviceは米国とEUのデータセンターにしか配置されておらず、日本のリージョンで契約している場合は処理が「US」扱いにマッピングされます。このため、Copilotを使うには「Copilotをオンにする」に加えて、管理者がテナント設定で「Enable cross-geo data processing(地域をまたぐデータ処理を許可する)」を追加でオンにする必要があります。
リージョンごとの提供状況にも差があります。確認できた提供表(最終更新2026-09-25時点)では、「Japan East」はPower BI・全Fabricワークロードに対応しており利用不可の機能の記載はありません。一方「Japan West」は、Digital twin builder(プレビュー)とFabric App(プレビュー)の2機能が利用できないと明記されています。
料金については、発表本文に記載がありません。Fabricキャパシティの月額料金は公式の料金ページで案内されているため、契約前にそちらで最新の金額を確認してください。本記事では、公式発表に記載のない金額を断定的には書いていません。
個人開発者・小規模事業者にとっての意味
今回の発表は、有償Fabricキャパシティ・Power BI・Azureといった企業向けの契約を前提としています。個人開発者や小規模事業者がすぐに触れる機能ではありません。

参考として、個人・家族向けのMicrosoft 365には、Personal(月額2,130円)・Family(月額2,740円)・Premium(月額3,200円)の3プランがあり、いずれもOfficeアプリ内蔵のCopilotを含みます(2026-09-29確認・日本向け公式価格)。ただし、これらの個人向けCopilotがFabric IQと同じ「自社データに基づいて回答する」仕組みを持っているかどうかは、公式のドキュメントには明記されていません。
もう1つ、個人開発者に間接的に関係する動きがあります。今回の発表では、非開発者でも自然言語でアプリやダッシュボードを作れる新しい「Code」体験とFabric IQを統合する計画が明記されていますが、これは一般提供ではなく「Frontier program」という限定的な早期アクセス経由での提供です。Codeという機能自体は、2026-09-25の別発表で紹介された新しいCopilotの構成(Home・Code・Autopilot)の一部です。この構成についてはweeveeの別記事「Copilotが刷新|Home・Code・Autopilotとは」で詳しく扱っています。
今日できる最初の一歩
新規の有償契約やエンタープライズ規模のデータ接続を前提とする機能のため、無料で「試す」ことはできません。今日確認できるのは次の2点です。

- 自社が契約しているMicrosoft 365・Azureのプランに、有償Fabricキャパシティ(F2以上)が含まれているかを公式ドキュメントで確認する
- 既にFabric・Power BIを契約している場合は、管理者権限を持つ人にFabricの管理ポータルでCopilotの有効化状況と、日本テナントであればcross-geo data processingの設定状況を確認してもらう
いずれも新規の申込みや課金操作は不要です。より詳しい発表の全体像を追いたい場合は、Microsoftが11月のIgnite(2026-11-17〜20開催)でさらに詳細を発表すると予告しているため、そのタイミングで情報を追うのが次の一歩になります。
もっと詳しく
IQ Sharingについて: 組織間・エコシステム全体でデータとビジネス文脈を、基盤資産へのガバナンスを維持したまま安全に共有する機能です。プレビュー段階のため、現時点では試験的な提供にとどまります。
Database Hubについて: SQL Server・Azure SQL・PostgreSQL・Cosmos DB・Fabric内のSQLデータベースを一元管理する統制プレーンです。パブリックプレビューで、SQL/PostgreSQL向けの専門データベースエージェントは今後追加予定とされています。
Observabilityについて: ワークスペース横断でジョブ・キャパシティ・ワークロードを一元的に可視化する機能です。AIが根本原因を特定し対応を自動化するとされていますが、提供状況(GA・プレビューいずれか)は発表本文に明記がありません。
未確認のまま残る点: Fabric Apps・Agentic Data Engineeringの提供ステータス、各機能の対象地域の詳細、個人向けCopilotのデータ連携の技術的な仕組みは、いずれも発表本文・公式ドキュメントの確認できた範囲では明記されていません。断定的な記載は避け、今後の公式発表を待つ必要があります。
Snowflakeなど外部データ基盤との連携について: 「MicrosoftとSnowflakeのデータ連携」に関する発表は2025年11月に別途行われたものです。OneLakeとSnowflakeのApache Iceberg接続、Power PlatformのDataverseコネクタ経由でのSnowflakeデータ活用、Snowflake Cortex AgentsをTeams・Microsoft 365 Copilotから使う機能、Microsoft Copilot Studioで構築したカスタムエージェントにSnowflakeデータを統合する機能などが含まれますが、いずれも今回(2026-09-28)のFabric IQ発表とは別枠であり、本記事の対象外です。本文中に両者を結びつける一次情報もありません。なお、今回のFabric IQ発表の資料では、(Snowflakeの発表にあったような)導入企業の具体的な事例は明らかにされていません。

