IBMが2026年10月1日、AIコーディングツール「IBM Bob」のセルフホステッド型を発表しました。ひとことで言うと、AIを動かす場所とデータの置き場所を、利用する会社が自分で管理するインフラの中に収められるようにした、という話です。

主に関係するのは、機密性の高いソースコードや規制対象のデータを扱う企業の情シス・開発部門・経営層です。セルフホステッド型の価格・提供開始日・対象規模は発表文に載っていないため、個人や小規模チームが契約できるかは今のところ分かりません。ただ「AIに渡すデータを外に出したくない」という悩みは、クライアントの資料を扱うフリーランスにも当てはまります。その確かめ方は、今日からローカルLLMで試せます。

IBMに関する内容は、IBMの発表文と公式サイトの記載(2026年10月2日時点)に基づきます。ローカルLLMの数値は、weevee が公開済みの別記事で測った値です。IBM Bob自体の利用は行っていません。

迷ったらこれ:まず自分のPCで小さなローカルLLMを1回動かす

「AIにデータを渡したくない」が理由でこの記事にたどり着いた個人・小規模チームには、手元のPCで小さなローカルLLM(自分の機械の中だけで動くAI)を1回動かすことをおすすめします。モデルは無料のものがあり、入力した文章が外部に出ない構成を体験できます。

ローカルLLMを1回動かす推奨と、メモリ別の使用量
3B級モデルはメモリ4GBなら余裕、2GBだとほぼ上限まで使う。

目安の根拠は、weevee の既存記事(VPS Ollama実測|メモリ選びと外部公開)の実測です。メモリ4GBの制限で3B級モデルを動かすと、使用量は2.786GiB(69.64%)に収まりました。同じモデルをメモリ2GBで動かすと、使用量は1.998GiB(99.92%)まで張り付きました。測定はWindows PC上のDocker Desktopで2vCPUとメモリ制限を再現したもので、VPS実機の値ではありません。

最初の5分でやることは、「今日やる一歩」の手順1(PCの空きメモリが4GB以上あるかの確認)です。そこから手順5までが、今日やる一歩の全体です。

向かない人もいます。社内規程や規制上の理由で特定の製品・環境が求められている企業は、この自前構成では代わりになりません。その場合は、次に説明するIBMの発表のような企業向けの選択肢を、情シスや契約窓口と一緒に検討することになります。

何が起きたか:Before → After

発表の中身を、公式発表の範囲で整理します(出典:IBMの日本語リリース(PR TIMES))。

IBM Bobのこれまでとセルフホステッド型の比較
変わったのは機能ではなく、AIを「どこで動かすか」の選択肢。
観点これまで(公式サイトの記載)セルフホステッド型の発表で
動かす場所IBMが提供するサービスとして利用する形で、Trial・Pro・Pro+・Ultra・Enterpriseの料金区分があるオンプレミス、プライベートクラウド、ソブリンクラウド、エアギャップ環境が運用先として挙げられている
データの置き場所入力データは最小限しか保持されず、モデルの学習には使われないと記載機密性の高いコード、規制対象データ、ワークフローを、顧客が管理するインフラ内に留める位置づけ
モデル公式サイトではタスクに応じてモデルを振り分けると説明ライセンスを受けてローカルで実行する形も、外部のモデルサービスにつなぐハイブリッド構成も使える

つまり「IBMが用意した環境で使うAI」から、「自社の管理下の環境にAIを持ち込んで使うAI」へ、選べる範囲が広がったということです。

IBM Bobは、サブエージェントの並列実行や自然言語での開発、CLI(Bob Shell)でのCI/CD組み込み、COBOL・RPG・Javaなどレガシー資産の近代化を特徴にしたエージェント型のソフトウェア開発ツールです。今回の発表で前面に出ているのは機能の追加ではなく、「どこで動かすか」の選択肢です。

エアギャップとは、インターネットから物理的に切り離した環境のことです。発表文では、運用先の1つとして挙げられています。

発表文に載っていないこと

  • 提供開始日(10月1日は発表した日であり、提供開始日とは書かれていません)
  • セルフホステッド型の価格
  • 対象規模(サーバー台数やGPU要件)
  • 使えるモデルの種類

日本語のリリースはありますが、日本での提供時期・価格・販売の経路の記載もありません。公式の料金表(Trial〜Enterprise)にセルフホステッド型の項目はないため、導入を検討するなら、価格と提供条件はIBMへの問い合わせが前提になります。

「AI主権」「ソブリンクラウド」をかみ砕く

発表文の文脈で使われている言葉を、仕事の言葉に直します。

AI主権・ソブリンクラウド・オンプレミスの意味
AI主権は「AIとデータを自分で管理できるか」という話だと分かる。
  • AI主権:AIを動かす環境とAIに扱わせるデータを、利用する側が管理できる状態。
  • ソブリンクラウド:データとAIを、顧客が管理できる環境に置くクラウド。
  • オンプレミス:自社の建物やデータセンターに置いた機器で動かす形。

IBMの幹部(AI・オートメーション担当GMのNeel Sundaresan氏)は、「企業向けAIの未来は、セキュリティー、ガバナンス、そして主権にかかっています」と述べています。英文の発表では、機密性の高いコードや規制対象データを扱うときは、自分たちが管理できる環境の中で動くAIが必要になる、という趣旨も引用されています。

発表文から読み取れる、企業側の関心は次の3点です。

  1. セキュリティー:機密性の高いコードを、顧客が管理するインフラ内に留める。
  2. 規制対象データ:規制の対象になるデータやワークフローを、同じく管理下の環境で扱う。
  3. データ所在地・主権の要件:複数の地域にまたがる要件への対応。

発表文には、出典つきの市場データが2点あります。

  • 経営幹部の68%が、複数地域にまたがるデータ所在地・主権の要件への対応は難しいと回答した。発表文は、IBM Institute for Business Valueの2026年6月の調査を出典としています。
  • 2030年までに、ハイブリッド・エッジ環境がAIインフラ市場の44%を占め、パブリッククラウドは46%に下がる見込み。発表文は、Futurum Researchの報告を出典としています。

どちらもIBMの発表文に書かれている数字で、weevee が検証したものではありません。

個人・小規模チームとの接続

大企業が「AIを自社の管理下に置く」ことを選ぶ構造は、個人が自前でローカルLLMを動かす動機と同じ形をしています。違うのは規模と目的です。

IBM Bobセルフホステッド型と個人向けローカルLLMの比較
動機は同じで、違うのは規模・価格・対象。
観点IBM Bobセルフホステッド型(公式発表)個人・小規模のローカルLLM(Ollama等)
動かす場所オンプレ、プライベート/ソブリンクラウド、エアギャップ手元のPCや自前のVPS
データ顧客管理のインフラ内に留める自分の環境内に留める
価格発表文に記載なしモデルは無料のものがある。VPS費は別途
対象規制業種・機密コードを扱う企業個人・小規模チーム

注意したいのは、IBM Bob自体には個人向けに見える料金表記がある点です。公式サイトには、Pro(月¥3,187)、Pro+(月¥9,562・180 Bobcoins)、Ultra(月¥31,900・1,000 Bobcoins)があり、Trialは無料(50 Bobcoins・30日)です。ただし、セルフホステッド型がこの料金表に含まれるか、個人が契約できるかは、公式の記載からは分かりません。

使い分けの考え方は次のとおりです。

  • IBM Bobそのものを試したい人:無料トライアル(bob.ibm.com/trial)があります。
  • 「データを外に出さない」構成を体験したい人:ローカルLLMで今日から試せます。この記事のおすすめはこちらです。
  • 社内規程で製品や環境が決まっている企業:IBMの提供条件の問い合わせが先です。デモ相談は、IBM Bobの公式ページにある問い合わせフォームから申し込めます。

今日やる一歩:手元のPCで小さなモデルを1回動かす

ゴールは「手元のPCでOllama(ローカルLLMを動かすための無料ソフト)を使い、小さなモデルを1回動かす」ことです。画面の細かい操作は、手順2で紹介する weevee の実測記事とOllama公式の案内に沿って進めます。

ローカルLLMを1回動かす5つの手順
この5ステップで、入力が自分のPC内だけで処理される体験ができる。
  1. 空きメモリを見る。 目安は4GB以上です。実測では、3B級モデルがメモリ4GBの制限で使用量2.786GiB(69.64%)に収まりました。
  2. Ollamaを入れる。 入れ方はOllama公式のダウンロードページにあるOS別の案内に沿います。このあと使うメモリと待ち時間の数値の見方は、VPS Ollama実測|メモリ選びと外部公開 に載っています。
  3. 小さなモデルを選ぶ。 空きメモリが4GB以上あるなら3B級、2GB前後なら0.5B級が目安です。
  4. 質問を1回投げて、動かす。 返事が返れば完了です。入力した文章は自分のPCの中だけで処理されます。
  5. 使用量と待ち時間を、次の実測値と見比べる。 余裕がなければモデルを小さくします。
モデル規模メモリ制限使用量起動(読み込み)時間
0.5B級2GB596.1MiB(29.1%)記載なし
3B級2GB1.998GiB(99.92%)19.61秒
3B級4GB2.786GiB(69.64%)6.71秒
3B級8GB記載なし1.33秒(warm)

数値はWindows PC上のDocker Desktop(2vCPU・メモリ制限)での既存記事の実測です。生成速度は0.5B級で約13トークン/秒、3B級で約3トークン/秒でした。

途中でメモリ不足になったときは、Ollamaメモリ不足の対処、実測で選ぶ3択 に対処の選択肢があります。

常時動かしたくなったら:メモリ4GB以上のVPSへ

手元のPCで1回動かせて「PCを閉じても動かし続けたい」と思ったら、自前のVPS(月額で借りる自分専用のサーバー)に移す選択肢があります。IBMの発表が描く「AIを自分の管理下で動かす」考え方を、個人の規模で続ける形です。

手元のPCからメモリ4GB以上のVPSへ進む流れ
手元で動かせたら、常時稼働はメモリ4GB以上のVPSが安全。

ABLENET VPS(運営:ケイアンドケイコーポレーション)の公式LPには、次の記載があります(2026年10月2日時点)。

  • Linux VPSプランはL0〜L7で、月¥554〜¥23,328。Ubuntu、CentOS、FreeBSDに対応。
  • メモリは0.5GB〜64GB、vCPUは1〜12コアの範囲。
  • 「最大10日間のお試しが可能」「申込月の料金無料」と記載。初期費用は無料(L0のみ例外)。最低契約期間なし。
  • 用途例に、Linuxの「AI self-hosting」が載っている。

LPにはプランごとの動作保証の記載はなく、どのプランで3B級モデルが動くかも書かれていません。そのため、プラン表でメモリ4GB以上のプランを選ぶのが目安になります。

実測では、3B級モデルがメモリ4GBで使用量69.64%、2GBで99.92%でした。だから、常時動かすならメモリ4GB以上のプランを選ぶのが安全です。IBMの発表が示した「自分の管理下で動かす」という発想を小さく続けるなら、手元で1回動かしたあとにお試し期間つきのVPSで試すのが無理のない進め方です。

もっと詳しく

IBM公式由来の数値とweevee実測値の線引き
IBM由来の数字と、weeveeの実測値は別物として読む。

IBM Bobの公式情報と実測の線引き

この記事の数値は、次の2種類に分かれます。

  • IBMの発表文・公式サイト由来:セルフホステッド型の発表内容、市場データ(68%・44%・46%)、料金表、機能。出所はIBMの記載で、第三者の検証はしていません。
  • weevee の実測:メモリ使用量・起動時間・生成速度。Windows PC上のDocker Desktopで測定した値で、IBM Bobやセルフホステッド型を動かした実測ではありません。

公式サイトは、エージェントモードがタスクに応じてモデルを振り分け、トークン消費を約40%削減するとも述べています。これはIBM自身の説明であり、この記事では検証していません。

次に読むなら

まとめ

IBM Bobのセルフホステッド型は、「AIを自分たちの管理下で動かす」選択肢を企業向けに広げる発表です。価格・提供時期・対象規模は、発表文には載っていません。一方で、AIに渡すデータの置き場所を自分で決めるという考え方は、個人でも今日、ローカルLLMで試せます。まずは手元のPCで小さなモデルを1回動かし、常時動かしたくなったらメモリ4GB以上のVPSへ進んでください。